このクサレ外道!
人のフリ見て我がフリを治す、と昔の人は言ったけどほんとうにその通りで自分は当たり前だと思ってやっていた事が他人様から見るととんでもないゲスな行為に見えてしまう事がある、本人は何も気にしていないのでちょっと注意もしづらい、そんな光景を沢山目にしてきた、昔新宿に友人といて話が盛り上がったので少し遠いが友人宅でもうちょい飲みましょうという話になった、実に微笑ましい光景である、目的地まで都合1回電車乗り換えを必要とするその道中の乗り換え地点、当たり前だが電車というのは切符、またはスイカ、パスモ、イコカ、その他等で料金を支払って乗るものであり、改札を通る際に改札機で決済をするというシステムである、あえて言う必要は無い常識のはずだ、たがその友人は改札機をジャンプして飛び越える、という独自のシステムで料金の支払いを回避していた、凄いと思った
入るときはどうしていたのか?と聞いてみたが入る時もジャンプしていたらしい
丁寧にも混雑している駅でしかこれはやれないんだ、というコツまで教えてくれた、笑顔で
むしろ清々しい気持ちになった
しばらく連絡を取っていないが無事にシャバで生きていてほしい
別の人はある時街のパスタ屋さんに共に昼食を取りに行った時であった
お店にもよるがパスタ店というのは卓上でタバスコやそれに類似した調味料が置いてある時がある、私はああいった調味料に目が無いのでパスタだけでなくサラダ、ピザ、ドリアなどにも欲望のままに振りかけて爆笑しているタイプなのだが、私が爆笑するのはそのパスタ店内でのみの話である、がその人はまず注文する前の段階でタバスコの様なそれを自らのカバンに放り込んだ、そして後ろの空いている席から別のタバスコ瓶を持ってきて何事も無かったかの様に注文を済ませたのである、笑えなかった、怖かった
しばらく連絡を取っていないがシャバで生きていてほしい
そういった外道の数々を目の当たりにしてはきた私ではあるが、人様の生活習慣に口を出すのは何だかお節介な気もして見て見ぬフリで何とかしてきた、だが根っからの正義漢である私は一度モーレツな注意をした事がある
それはまた別の人と家でゲームをして遊んでいた時である、やはり家でゲームをするとなればポテトチップスやスコーン、じゃがりこなんかが欲しくなると思う、もちろんその日もそういったスナック菓子の類をコンビニエンスで購入
早速ゲームをスタートしたのだけど、ゲーム中、談笑中、どうしても気になった事が1つあり、私はゲームに身が入らなかった、一回大きく咳払いしてみたが本人は全く悪びれる様子も無くそれを繰り返していた
どうやら彼はスナック菓子の類を食した後の手を家の敷物などで拭く癖がある様だ、更に言ってしまうとその手をたまに舐めたり、その舐めた手でコントローラーを持ったりとかするようである、いちいち都度ティッシュで拭け!とまでは言わない、最悪自分の洋服で拭いたりしてくれれば私もフランクな場なので見て見ぬふりもできた、なんなら自分もそんくらいはたまにやる、しかしスナック菓子を食べるたびに指についた粉をカーペットになすりつけたり、時々指を舐める、いや、1000歩くらい譲って指を舐める行為が彼にとっての指洗浄なんだとしてもや、その指のままコントローラーを持ったりカーペットになすりつけたらアカンだろ!どげんかせんといかんだろ!お前圧倒的にモテないだろ!と憤怒してゲーム機を爆砕し、手に持ったビックルをぶっかけてやろうかとも思った
しかしながら自分はお人好しのビビリなので
ちょっとほら、手、拭こうか
とティッシュを差し出した
しばらく連絡を取っていないが、まぁどこかで生きていてほしい
そういった外道、下人、の悪行を時には厳しく、しかし愛を持って警告などしてきた私、
私は大丈夫か、私も知らず知らずに外道な行為を行っているんじゃないか
立ち止まり俺は考えた
そしたらもう昨日やってた
マジごめん、マジ偉そうな事言ってごめん
カーペットで手を拭いていいよ
私は大の綺麗好き、というわけでは無い、なんならちょっと前まで限界がくるぐらいまでは部屋を荒らしておくタイプのなまけた男だった、反省している
そもそも掃除云々以前にウチにはやたらとモノが多くて困っていた、困っていたのに、変なおもちゃ、キーホルダー、漫画やゲームなどを未だに無駄に買ってしまう
洋服などはクローゼットをはみ出し押入れや果ては床にまで積み上がっているのになんとなく良さそう、と思うとすぐ変な服を買ってしまう
Tシャツは洗濯が追いつかず常に洗濯機の前に積み上がってしまっている
断捨離したい、心から思っているんだけどいざとなると何を捨てていいかわからない、色々言わないでほしい、もう嫌だ、生きていたくない
気付いたらそうやって床に体操座りして泣いている事も少なくない
そんな駄目な自分
せめてモノが多くても小綺麗にしておきたいと考えて掃除機をかけまくろうと思ったんだけど、我が家の掃除機は何年前の商品か知らないがとてつもない爆音を出すのに吸引力がダイソンの100分の1くらいしか無いゴミ同然の代物なので無視してほうきを使う事にした
ほうきってちょっとめんどいけど最高である
まずあの地の底から聞こえるかの様な爆音が聞こえないので何時でも掃除ができる
あと自分の力でやってる感があり気持ちいい
私はほうきがけにハマりちょっと時間があればそれをする様になった
また床がいい感じになる事によってモノが多い事にだんだんイライラしてきてそれも片付けるようになっていった
いいぞ、俺
ではそれの何が外道だったのか
私はほうきでかき集めたゴミをガンガン家の外に掃き出していたのだった
我が家にはほうきは3本もあるのにちりとりが無かった
何度かちりとりがわりにあまったフライヤーや新聞紙なんかで代用しようとしたがやはりちりとりって凄い
ゴミをちゃんとほうきからすくい上げる様に設計されているのだ
紙如きではぜんっぜんゴミはすくえない、でもゴミを直接手で触るのもなんか嫌だ、しばらく考えたのち私は玄関のドアを開け、周りに人がいないかを確認した
大丈夫そうだった
呆れた事に自分はその後も何度も何度も玄関から外に、窓から庭にゴミを投棄し続け、どうせ土に還るからね、と悪びれる事も無かった
1人殺すのも100人殺すのも同じやさかいな
とソファに踏ん反り返っていた
坂道を転げ落ちる様に悪業を重ねた自分はその日もまた悪に染まった顔で掃き掃除をはじめた
その顔は狂気に満ちた悪人そのものであった
ある程度のゴミが集まり俺はいつもの様に鍵穴を除いた
黒いワゴン車が一台止まっている
人が乗っている感じはしない
もし近所のオバハンどもがその向こうで喋っていてもワゴン車がガードしてくれているしドアを開けるのはほんの一瞬だ
大丈夫そうだ
悪にまみれた俺は
「誰か殺してくれよ」
と呟いてドアを開けた
ワゴンには予想通り人は乗っていなかった
だが私の動きは止まってしまった
黒いワゴンに反射する醜い男
首がヨレヨレのTシャツにパンツ一枚でボサボサ髪
私利私欲にとらわれ欲望に歪んだブヨブヨの顔
その醜き餓鬼の様な男が真っ黒なワゴンからこちらを見ていた
私だった
汝、深淵を覗き込む時、深淵もまた汝を覗き込んでいるのだ
ゴミを掃き出すのをやめドアを閉じた
コップ一杯の水を飲み深く息を吸った
今日はよく晴れているな
そろそろ蝉も鳴き出しているんじゃないのかい?
えー?アレは蝉かなぁ
だってあそこにほら、なんか黒い虫が
たけしー!さっさと昼ご飯、食べちゃいなさい
やだいやだい!毎日お素麺なんて食べられないやい!
もぅ〜ほんとにこの子は!
あ!こら!待ちなさい!
ちょっとさつき〜、あんたもなんか言ってよ〜弟でしょ〜
やだよ、めんどくさい
ところであんた、宿題は終わってんの?毎年毎年そうやって余裕しゃくしゃくやってると!またギリギリで泣きを見る事になるわよ!
もぉ〜おかあさん、うるっさい!
あ!ちょっと!ちゃんと食べてからにしなさい!
はぁ〜ほんとにこの子達は〜
お、なんだい、今日も素麺かい
なんだいじゃないわよ、昼に起きてきて!このボンクラ!
はぁいはい、どうせ俺は安月給のボンクラだよぉ〜
あ、おじいちゃん〜スイカお食べになりますー?
あぁお願いするよ
…………
ところでアレ本当に蝉かなぁ
随分大きい様な
というよりなんかどんどん大きくなっていってるね
おじいちゃん、スイカです、お待たせしました
あぁ、ありがとう
………
お前、日本は完全に変わってしまったよ…
物は豊かにはなった、あらゆる技術は進化した
人々の暮らしは変わった
でもいつも心には何かがひっかかったままだ
息子や孫達にはきっとわからないのかもしれない
でも心の中の大切な何かが
決定的に変わってしまったような気がしてならない
誰かがそれに気づいてやらなくちゃならないと思う
だがもうわしがしてやれる事は無い
こうして縁側に座って
もう、思い出せる事もあまり少なくなってしまった
やっぱアレ蝉じゃないよ、ヤバい気がする、もうだってあんなにデカくなってきてる、え、何?アレ何?
とりあえずちょっと逃げた方がいいな、わかんないけど走ろう
………
ちょっとさつき〜、夕立来ちゃいそうだからー!洗濯物手伝ってー!
もうほんとにしょうがない子達ね、まったく!
さつきぃ〜!
あらやだ、ほら言わんこっちゃ無い!空が真っ暗!!