記憶

夕方が似合う街だった

小さい商店街があるとそんな感じがする

踏切を渡って

ラインナップの変わらない商店街を端まで歩いて

この先はなにも無さそうだねえ

と言って引き返すのを何回もやった

そこから先に歩いて行ったことも何度もあったけどいつも

何も無さそうだ

と言っていたのがおかしかった

リサイクルショップだけはいつも欠かさずに見て帰った

料理を思いついている時はスーパーに寄ったし

思いついて無い時は居酒屋や

やたらと麺の太いパスタ屋なんかに行ったりした

新しい店は本当にたまにしかできなかったから線路沿いのスーパーの隣に蕎麦屋ができた時は興味津々で お互い見たことの無い餌を見つけた動物の様に看板やメニューの周りをぐるぐる回って結局その日は寄らずに帰った

アパートの隣には少し大きい公園があったけど普段そこまで行く事も無かった

 

料理を食べてダラダラとテレビを見て

明日も仕事だから帰ろうか、って時は必ず駅まで送ってくれた

改札を抜けて電車が着くギリギリまで見送りをしてくれる

別にそこまでしてくれなくても

バイバイで帰っても何かが変わるわけでは無いんだろう

でもしてくれるから

人の愛情の深さはこういうところに出るんじゃ無いか、と思ったりした

その暮らしはけして短くはなかったが

やはり終わってしまって

自分はその時決定的に人を繋ぎ止める何かを持っていない事を確認した

しっかりとは何があったかは聞かなかったが

男と同様に女もズルい事は知っている

記憶など意味の無いものかもしれないけど

その時の日常の温度や空気だけはまだ頭に残っていて

その強さで思い出の大切さを測ってしまう自分がいる

 

1〜2年前 あのアパートの隣の少し大きい公園に友達と立ち寄った事があった

感慨は思ったほどは無かったが

かまわないのだ

あの温度や空気は

今のものでは無い

子供達がサッカーをしていて

確かに昔見た風景だった

 

商店街が尽きるとこまで歩いて

あー、、この先は何も無いけどー

とりあえず歩くか

と言って

引き返す事なく僕達は夕方の街に消えた